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高松高等裁判所 昭和44年(ラ)42号 決定 1970年9月25日

抗告人 末永正治(仮名)

相手方 二葉道子(仮名) 外五名

主文

一  原審判主文二を次のとおり変更する。

「遺産目録(六)、(七)の(1)、(2)の各不動産の所有権は申立人二葉道子、相手方末永良江の共同取得(持分は各二分の一)とする。ただし、申立人二葉道子、相手方末永良江は、相手方末永正治に対し、遺産目録(六)の宅地中の同(七)の(3)の倉庫の敷地部分を本審判確定の日より二〇年間無償で使用させるものとする。」

二  原審判主文四の(3)本文を次のとおり変更する。

「相手方末永宏、同上里洋子、同松山照子、同梅畑文子に対し各金七一、八一〇円を、申立人二葉道子、相手方末永良江に対し各金五四、八三五円を支払え。」

三  原審判別紙遺産目録(八)の「田一反一畝四歩(一、一〇四・一三m2)」を「田一反一畝一四歩(一、一三七・一九m2)」と訂正する。

四  抗告人のその余の抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨および理由は、別紙抗告理由書二通のとおりである。

抗告理由書(第一回)の第三の点について。

しかし、本件相続開始前において特別授益があつたことを認めるに足る資料はない。一件記録によると、原審は、各相続人よりの回答書、一部の相続人に対する審問および調査官の調査結果により、全員に特別援益なしと判断したものであることが明らかであり、右判断は何ら不当とは認められない。

抗告理由書(第二回)の第四の点について。

しかし、遺産目録(七)の(3)の建物(公簿上倉庫)の鑑定価格は撤去を要する建物としての価格ではなくしてその敷地を引き続き利用できる建物としての価格であることは明らかであり、右鑑定価格が不相当であることを窺わしめる資料は全くない。そして原審判が、敷地の使用権を伴うものとしての右建物を抗告人に取得させる趣旨であることは判文上充分窺えるところである。ただし、その使用権原が明確でないうらみがあるので、原審判の認定した諸般の事情を考慮の上、右建物の敷地につき、期間二〇年の使用貸借権を設定させることとし、原審判主文二を一部変更する。

その余の抗告理由について。

所論は要するに、原審判別紙遺産目録(七)の(3)の建物と(六)の宅地の一部とを相手方末永良江に取得させるほかは全部の不動産を抗告人の取得とされたい、各自の相続分との差額は金銭で決済することとし、その支払については相当長期の分割弁済を認めてもらいたい、というにある。しかし、遺産の分割に当つてはすべての相続人の利害を公平に考慮しなければならないのであつて、原審判が適法に認定した諸事情に従えば、原審判の採用した分割方法は充分首肯するに足りる。抗告人の主張するような分割方法によらなければ抗告人の農業経営が不可能になるものとは決して認められず、抗告人の受けるべき不便は、当然受忍すべき範囲内のものであるというほかはない。相手方末永良江を更に審問又は調査する必要も認められない。論旨はいずれも採用できない。

ところで、職権を以て調査するに、原審判は、その理由の第二の二の(3)(原審判書一三枚目裏六行目より八行目まで)において、「本件遺産の時価は合計金二、一八〇、四〇〇円であるので各当事者の相続分を金銭に評価すれば各金三一一、五〇〇円となる」と判示し、以下各当事者の相続分が各金三一一、五〇〇円であることを前提として清算金(代償金)を定めているが、金二、一八〇、四〇〇円の七分の一(本件各当事者の相続割合)は金三一一、四八五円(円末満切捨)である。思うに原審判は、些細な端数金の支払が煩雑であることを慮り、概数を以て相続分を算定したものと思料されるが、相続分の算定には右のような裁量は許されぬものと解する。ところで、前にも述べたように、原審判の採用した原物の分割方法は適切であつてこれを変更する必要をみないから、右方法を前提として清算金を計算するに、本件各相続人の相続分は、前記のとおり、いずれも金三一一、四八五円であるところ、本件抗告人末永正治は、七〇万八、四〇〇円相当の遺産(現物)を取得するから、相続分を超過する額は金三九六、九一五円であり、反面において、相手方末永宏、同上里洋子、同松山照子、同梅畑文子は、各自金二三九、六七五円(原審判別紙遺産目録(九)の保安林の評価額九五八、七〇〇円の四分の一)相当の遺産を取得するから、相続分に不足する額はそれぞれ金七一、八一〇円であり、相手方(原審判では申立人)二葉道子、相手方末永良江は各自二五六、六五〇円(同目録(六)、(七)の(1)(2)の各物件の評価額合計の二分の一)相当の遺産を取得するから、相続分に不足する額はそれぞれ金五四、八三五円であつて、本件抗告人をして右各不足額を支払わしめなければならない(なお、抗告人の支払うべき清算金合計は観念的には前記のとおり金三九六、九一五円であるが、相続分の算定に当り円未満を切捨てた結果、抗告人は現実には合算して金三九六、九一〇円を支払えば足りる)。原審判はこの点において変更を免れない。

また、原審判は、その理由の第二の(4)の中で(原審判書一四枚目表二行目より六行目までの括弧内)、「(申立人二葉道子、相手方末永良江に対する金六二三、〇〇〇円は相手方末永良江の退院後の居住等に要する費用として、忽ち必要なものであるから、後に述べるような他の各当事者に対するように分割支払は考えられない)」と説示している。右金六二三、〇〇〇円とは右両名の相続分の合計額であること明らかであるが、原審判別紙遺産目録(六)(七)の(1)(2)の物件について分割支払ということはない(相手方末永宏らに取得させられる同目録(九)の物件についても同じ)から、右説示の趣旨とするところは、清算金に関するものと解されるが、審判の主文においては、他の当事者に対すると同様、分割支払を命じているのであつて、主文に照応しない説示というべきである。しかし、相手方末永良江の取得すべき清算金は金五四、八三五円にすぎず、内金一〇、〇〇〇円についてはすでに支払期が到来していること、原審判に対し右末永良江より不服申立がないこと等の事情を考慮すれば、右末永良江、二葉道子に対する清算金支払も、他の当事者に対すると同様、分割支払を認めるのが相当である。よつて、原審判理由の前記説示部分はこれを削除し、分割支払の原審判主文はこれを維持することとする。

さらに、原審判は、別紙遺産目録(八)に「田一反一畝四歩(一、一〇四・一三m2)と表示しているが、これが「田一反一畝一四歩(一、一三七・一九m2)」の誤記であることは一件記録中五六丁の土地登記簿謄本によつて明らかであるから、そのように訂正する。

ほかには一件記録上不当な点は認められない。

よつて、原審判の一部を主文掲記のとおり変更および訂正し、抗告人のその余の抗告を棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 橘盛行 裁判官 今中道信 藤原弘道)

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